2015年5月16日

「大阪都構想」の狙いを探る

日曜日に大阪都構想の信を問う住民投票が行われるとのこと、地方創生・活性化に取り組むものとして「大阪都構想」の背景について想像半分で考えてみました。


大阪都構想について考える上でまず大阪市と同じ規模の政令指定都市の状況を確認しました。


人口100万以上の政令指定都市

人口100万人を超える政令指定都市は全国で下記の11地域があります。


都市名人口(2014年)行政区
横浜市3,714,200人18区
大阪市2,667,830人24区
名古屋市2,254,891人16区
札幌市1,930,496人10区
神戸市1,553,789人9区
福岡市1,474,326人7区
川崎市1,433,765人7区
京都市1,420,719人11区
さいたま市1,253,582人10区
広島市1,186,928人8区
仙台市1,049,578人5区

都市名人口(2014年)行政区
横浜市3,714,200人18区
大阪市2,667,830人24区
名古屋市2,254,891人16区
札幌市1,930,496人10区
神戸市1,553,789人9区
福岡市1,474,326人7区
川崎市1,433,765人7区
京都市1,420,719人11区
さいたま市1,253,582人10区
広島市1,186,928人8区
仙台市1,049,578人5区

上記の人口100万人以上の政令指定市すべてが行政区に分かれています。


「維新の会」は「大阪都構想」の理由の一つとして「人口200万の都市を一人の首長が見るのは難しい」と主張していると聞きましたが、大阪市より人口規模が大きな市が同じ形態をとっていることから、この点での「維新の会」の主張はちょっと的外れではないかと思えます。


 

それでも敢えて東京都と同じように特例区を導入しようと考えている背景には他に狙いがありそうです。


行政区と特例区

ところでここで「特例区」と「行政区」の違いについてちょっと整理してみました。

「特例区」は独立した自治体である「市」と同格であるのに対して「行政区」は「市」の一部という扱いであるため下記のように権限などに関して大きな違いがあります。


法人格長の選挙議会条例制定権課税権
特例区
政令市行政区✖️✖️️✖️✖️✖️

大阪市の課題は何か?

わざわざ反対の多い「特例区」を目指す背景を考える前に大阪市の課題について考えてみました。


「硬直化した財政状況」

経常収支比率という財政構造の柔軟性をみる指標を同じ人口200万を超える政令指定都市である横浜市、名古屋市と比較してみると大阪市だけ100%を超えており、財政構造に全く余裕がないどころか義務的経費(人件費、民生費、公債費など縮小することが容易でない経費)が税収と地方交付税額を上回っている状況であることがわかります。


これは企業経営に当てはめると固定費がほぼ全ての経費を占めており、変動費が全くないことを意味します。

企業において売り上げにより変動する費用が変動費であり、それがないということは売り上げをあげる手段がないということを指しています。


「お金を稼ぐこと」が存在目的である企業に対して「お金を使うこと」が存在目的である地方自治体において変動費がないという状況は企業ほどは危機的状況ではないでしょうが、何かあったときの対処能力に問題があるかもしれませんね。


大阪市名古屋市横浜市
経常収支比率101.999.895.6


「飛び抜けて多い地方交付税」

人口当たりの税収がもっとも大きい大阪市ですが、なぜか人口当たりの地方交付税額が横浜市の約3倍、名古屋市の約6倍にもなります。


地方交付税額は、地方交付税法により規定されたルールに基づき合理的に算出された財政需要である「基準財政需要額」と、同じく一定のルールに基づき合理的に算出された財政収入である「基準財政収入額」の差額により算出されるのですが、横浜市や名古屋市の場合その金額差が小さいのに対して大阪市は「基準財政需要額」がかなり大きい分、差が大きくなっており、収入に対して需要が多いことを意味しています。


「基準財政需要額」は人口や面積、犯罪件数などかなり多くの指標に基づき計算されますが、基本的に財政状況が悪くても一定レベルの行政サービスが提供できるようにすることを目的としてシステムであることから、大阪市の財政状況及び行政サービスは横浜市や名古屋市に比べて良くないことを表しています。


人口当たり大阪市名古屋市横浜市
地方交付税19,729円3,835円6,771円
基準財政需要額204,632円174,176円154,460円
基準財政収入額185,017円170,859円148,182円
標準財政規模297,069円248,495円221,178円
地方税額246,548円223,304円193,215円


「ほぼ全ての科目において類似団体を上回る歳出」

財政状況にもっとも大きな影響を与える経費構造について見てみるとほぼ全ての科目において人口当たりの金額が横浜市、名古屋市を上回っており、特に総務費(横浜市の3倍、名古屋市の2倍)、生活保護費(横浜市の4倍、名古屋市の3.5倍)、公債費(横浜市の2倍、名古屋市の1.5倍)の大きさが目立ちます。


また、人口当たりの職員数を見ても横浜市の約2倍となっており、企業であればかなり経営効率が悪いと言えます。


人口当たり大阪市名古屋市横浜市
議会費1,001円843円814円
総務費82,607円28,219円24,252円
民生費265,989円161,821円146,501円
うち社会福祉費49,820円38,490円34,939円
うち老人福祉費32,526円27,265円22,340円
うち児童福祉費59,145円55,817円53,127円
うち生活保護費124,422円40,207円36,045円
うち災害救助費76円41円51円
衛生費34,246円33,406円25,520円
労働費871円429円734円
農林水産業費34円606円480円
商工費54,961円42,715円24,311円
土木費64,291円62,799円61,226円
消防費14,571円11,591円11,323円
教育費43,474円35,821円36,245円
災害復旧費0円28円14円
公債費102,553円67,070円50,464円
諸支出金3,576円13,801円4,834円
前年度繰上充用金0円0円0円
歳出合計668,173円459,148円386,717円


人口一万人当たり大阪市名古屋市横浜市
職員数93人76人54人


「地方債残高と財政調整基金」

地方自治体が抱える借金の総額である地方債残高は横浜市の約1.5倍にものぼります。

しかし、地方自治体の貯金を表す財政調整基金はなんと横浜市の約10倍、名古屋市の約6倍にも及び標準財政規模の10%が適正と言われる中で15%を確保しています。


財政調整基金は企業であれば「剰余金」のようなものだと思いますが、「剰余金」ばかり多くて経営状況が悪い企業は経営の怠慢だと言われますが自治体の場合はどうなんでしょうか。

それでも行政サービスが他の自治体に比べて充実しいれば誰も文句は言わないんでしょうけれど。


人口当たり大阪市名古屋市横浜市
地方債現在高844,423円769,882円591,714円
財政調整基金46,820円6,683円3,508円人


「行政サービスの状況」

主要な項目について行政サービスの提供状況を類似団体内で比較し、10段階評価した合計得点を上記3都市で比べてみると、70点満点のところ、大阪市は32点、名古屋市は40点、横浜市は47点。

これを見ると大阪市は横浜市、名古屋市に比べて特に「所得」・「仕事」・「治安」の面で課題があるようですね。


上記から大阪市の状況を表現してみると「行政サービスが平均以下」ですが、「歳出は平均以上」という状況であるといえると思います。

また、別な言い方をすれば、「肥大し悪化した財政状況をサポートするために大変な金額の地方交付税を借金だらけの国からもらっている」とも言えるのではないでしょうか。


※各都市の詳細データについては「街シル」をご覧ください。


なぜ”大阪都構想”なのか

通常企業経営でこのような状況に陥れば最初にすることは財政状況を改善であり、そのための手段としてよく行われるのがリストラです。

また、リストラを行う場合に既存の既得権者から既得権を切り離すと同時に非効率なプロセスを洗い出し、見直すことを目的に「組織再編」が伴うことが多いです。


そう、今回の「大阪都構想」の狙いが肥大化する行財政の圧縮し、非効率なプロセスを根こそぎ見直すことであれば行政区ではなく組織自体を壊して新しく作り直す手法である特例区を選ぶ理由もわかるような気がします。


財政面でみれば行政区では、大阪市という箱の中を小さく区分けするだけで、歳入も歳出も変わらないですが大阪都構想で特例区になると大阪市は地方交付税の対象から外れ、代わりに都が課税・徴収する市町村税のうち、固定資産税、市町村民税法人分、特別土地保有税の収入額の一定割合(平成19年度から55%)を財源として、各特例区に「特例区財政調整交付金」として交付する形になりますので、国におんぶに抱っこになっている現状から脱却し歳出圧縮せざるを得ない状況になるわけです。


これは、膨張する国の借金を地方交付税を減少させることで減らすことができるだけでなく、大阪市の自立を促すことができるとも言えます。


行政サービスの悪化を懸念される方が多いようですが、それも上述したように横浜市や名古屋市に比べれば効率の面でまだまだ改善の余地があるようですので、しっかりそこを見ていけば回避できるリスクではないでしょうか。


一点気になる点は、大阪市の「生活保護費」が多いことです。

大阪市は「あいりん地区」という日雇い労働者やホームレスが集まるエリアがあるという横浜市や名古屋市にはない特徴があります。

この環境要因がどれくらい行財政の悪化に寄与しているかわかりませんが、もしそれが主要因なのであれば、「大阪都」にしても何も変わらないどころか予算縮小により状況が悪化する可能性があるので注意が必要だと思います。


ということで結果的に「大阪都構想」に賛同するような結論になってしまいましたが、別に「維新の会」の回し者でもなんでもなく、第三者の視点で客観的にどちらが良いかをできる限り俯瞰的に見た結果であり、日曜日に住民投票に行かれる方の一つの視点になればと思います。



2015年5月16日 株式会社 社会価値'見える化'研究所

代表取締役 石橋 宏太